空き家増大にせよ、不明瞭な土地所有にせよ、これらが市場の運動の結果ではなく、土地・住宅・都市に関する一連の政策・制度に起因する点に注意する必要がある。人口が増え、経済が拡大し、住宅・宅地が不足していた時代に確立した住宅政策・都市計画は、人口減少とポスト成長の時代になっても住宅建設を後押しし続けた。開発推進の政策を要求する財界の政治力は強い。不動産保有の私権を強力に保護する制度体系は、所有関係が不明瞭な土地を整理できないままにした。この意味で、空き家および土地所有の問題とは、政策・制度問題にほかならない。
だとすれば、人口・経済条件などの変化に沿って政策を変え、制度を設計し直せば、空き家問題は速やかに解決するのではないか。この文脈での試みの一つとして、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が2015年に施行され、危険・不衛生な空き家等に対し、それが私有物であっても、管理が不適正である場合は、行政介入が可能になった。
しかし、空き家問題の「現場」は、さまざまな因子が錯綜(さくそう)し、一戸建てと集合住宅、農山村と都市、都心と郊外で異なる様相をみせる。不動産の私権をどうするのかといった理論上の問いを検討すると同時に、現場から創意工夫の実践を重ねる方向性が必要になる。
中川寛子『解決! 空き家問題』(ちくま新書・15年)は空き家活用の豊富な事例を紹介し、現場でさまざまなアプローチが育っていることを論じた。由井義通・久保倫子・西山弘泰編『都市の空き家問題 なぜ? どうする?』(古今書院・16年)は研究者の仕事らしく、空き家発生のメカニズムを多面的かつ実証的におさえたうえで、自治体、不動産業界、住民による多彩な空き家対策を考察してみせた。米山秀隆編著『世界の空き家対策』(学芸出版社・18年)は、あまり知られていなかった欧米および韓国の空き家施策を紹介し、国ごとに対応技法が独特であることを示している。
[日本経済新聞朝刊2019年1月12日付]
毎回言っているが、空き家問題は間違いなく今後の日本の社会に大きく影を落としてくる。わかっているのにみんな手をつけられない。これは一業者や個人単位の空き家対策という問題ではないと思う。文中にもあるように、行政が一部業者に痛みを伴っても政策制度を整えていく音頭をとっていくしかないのではなかろうか。携帯料金のように。